Customer Success Story
SINET6が400G対応、耐障害性を強化し、日本の研究・教育を支援
国立情報学研究所は、日本全国に張り巡らされた、各機関の研究・教育を支える学術情報ネットワーク「SINET(サイネット)」を構築・運用しています。2022年4月にオープンしたSINET 6では、ジュニパーのソリューションを全面的に採用し、国内接続網における400G接続・POP増設・冗長性強化・セキュリティ強化という大きな4つの目標を実現しました。
概要
会社名 | National Institute of Informatics |
業界 | 政府機関および非営利団体 |
使用製品 | MX Series, ACXシリーズ, ジュニパーとCoreroのDDoS攻撃防御ソリューション |
地域 | APAC |
日本の研究と教育を支えるネットワークインフラストラクチャをアップグレード
全国70カ所の接続ポイントで400Gネットワークを構築
接続点では低コストルーターで冗長性を実現
DDoS攻撃対策を強化
データを多用する研究ニーズに対応し、教育分野での役割を拡大
国立情報学研究所が設立し運営する学術情報ネットワーク(SINET)は、日本の最先端学術情報インフラストラクチャの中核をなす情報通信ネットワークです。SINETは、日本全国に接続ポイントを持っており、国内の大学や研究機関で使用される最先端のネットワークを提供しています。SINETは、米国、ヨーロッパ、アジアの研究ネットワークと繋がっており、国際的な先進研究プロジェクトのインフラストラクチャとして利用されています。
1992年にSINETの最初のバージョンが作成されて以来、4~6年ごとに更新されており、最先端の技術と革新的な手法が取り入れられています。2016年から運用を開始したSINET5は、全国に張り巡らされた100Gbpsの高速ネットワークで、多層化された冗長化設計で高い信頼性を確保しています。2019年には、先端研究データを高速で伝送するニーズに応えるため、東京ー大阪間に400Gbpsの接続が、さらに米国、欧州、アジアとの間には100Gbpsの接続が確立されました。SINETは、ネットワーク回線だけでなく、高速インターネット接続、高速VPN、オンデマンドサービス、セキュアなモバイルサービスなど、さまざまなサービスを提供しています。これにより、各地域にある大規模な試験施設、スーパーコンピューター、クラウドサービス、商用クラウドサービスとの接続を確保して、共同研究やリモート教育を支援しています。
「SINETの意義や役割は、当初のものから大きく変わっていませんが、研究データに対するニーズは変化しています。データ量が急増しており、データ分析の必要性が高まっています。これまで蓄積されてきた大量のテストデータが、新しい分析や研究に再び利用される可能性があります」と、国立情報学研究所の情報システムアーキテクチャ科学研究系の准教授で、学術ネットワークの研究開発センターの副所長である栗本崇氏は述べています。さらに栗本氏は、「SINET5の中盤以降、小学校、中学校、高校などの教育現場でもSINETを活用する動きが活発になっています。SINETは、GIGA学校構想や、Society 5.0において、中心的な役割を果たすことが期待されています。SINETには、これまで以上に広い分野での活躍が求められています。」と続けています。
こうしたニーズに応えるため、国立情報学研究所では、400G光伝送、5Gモバイル、NFV(ネットワーク機能仮想化)などの最先端技術を導入し、より高速で広帯域かつ使いやすいサービスとするための強化を目指して、SINET6を評価および構築しました。SINET 6の本格運用は、2022年4月から始まりました。
SINETのリーチと耐障耐障害性を拡大
SINET6には、4つの主要なアップグレードがおこなわれました。400Gbpsの導入、接続ポイントの拡大、冗長性の強化、そしてリアルタイムDDos攻撃緩和によるセキュリティの強化です。
SINET5では通信に100Gbps通信を使用していましたが、新技術に対して不慣れな面もあることから、当初、導入には困難が伴いました。400Gbpsはさらに最先端の技術であり、また市場でも一部にしか出回っていないため、詳細な技術仕様を把握することから始める必要がありました。
日本では、研究内容や地理的条件の性質上、遠隔地に開設されている研究所や観測所があります。SINET5では、すべての都道府県に接続ポイントが設置されていましたが、SINET6では、接続ポイント数が約1.5倍に増されて70カ所となり、接続性が向上しました。当初はL2スイッチを使用しての拡張が検討されましたが、研究や機器によっては100Gbpsでも不十分であることがわかったため、すべてを同じ仕様にする案が採用されました。
「400Gの最先端技術を採用しながら、コスト効率を優先して、高い信頼性を確保する製品を選ぶ必要がありました。ジュニパーネットワークスの製品は、SINET5で高い信頼性とコストパフォーマンスを示しており、最新モデルは400Gbpsに対応しています。これらの理由から、SINETAS6に対しても重要な候補として検討しました。」と、栗本氏は述べています。
SINET5では、各接続ポイントにルーターが1つ設置されていたため、保守などが実施されるたびにサービスを提供できなくなっていました。ネットワークをシャットダウンできない加入機関は、バックアップ回線を別のSINET接続ポイントまで延長するか、SINET以外のネットワークにバックアップ回線を接続する必要がありました。この問題を解決するため、SINET6では、接続ポイントに冗長な機器を導入することが重要な要件となりました。しかし、各接続ポイントにルーターを2つ設置するとコストが高くなるため、より効率的な方法が必要でした。
国立情報学研究所がこの問題に対応するにあたって注目したのが、Juniperの新技術であるPseudoWire Headend Termination(PWHT)でした。PWHTでは、冗長ルーター(MXシリーズ)の代わりに、小型回線マルチプレクサ(ACXシリーズ)を設置することができました。これにより、別の接続ポイントにあるSINETルーターに接続できるようになります。接続速度は低下しますが、コストを押さえながら接続を維持することができます。
回線やサービスの拡充に伴い、SINETの研究ネットワークとしての価値も高まりましたが、その一方で、サイバー攻撃の標的となる可能性も強まりました。SINET6には、超高速インターネット接続回線が備わっており、より大規模なDDoS攻撃も想定されます。加入者の接続回線の速度も高速化されているため、DDoS攻撃で受ける影響も大きくなります。SINET6には現在、MXシリーズと連携して、高速、低負荷、高精度で攻撃トラフィックを検出し防止するJuniperのCorero(現TDD)が適用されています。
大学から小学校までにリーチを拡大
国立情報学研究所はSINET6を使用して、MXシリーズをコアとした、安定した高性能400Gbpsネットワークを全国に構築しています。接続ポイント数を増やし、各地域の大学や研究機関がこれまで以上に接続しやすい環境を整えました。
SINET5を使用しているときに、多くの加入機関から要望があったバックアップ回線のハードウェア冗長性を向上できたことは、大きな成果だと栗本氏は考えています。冗長な高性能ルーターは、電力や設置スペースなどの多くのリソースを消費するため、目に見えない効率化が実現されました。また、将来に備えて強化されたDDoS攻撃対策への期待も高まります。
最先端技術を採用しているSINET6の仕様は、極めて高度です。最初に検討した時、栗本氏らは実装するのは難しいと考えていました。実際に困難もありましたが、栗本氏は今回の取り組みを振り返って、SINET5の構築と運用を支援したジュニパーネットワークスをはじめとした「さまざまなビジネスパートナーと連携することで、ネットワーク環境を完全に実現できました」と述べています。
「ジュニパーネットワークスは、当初からこのプロジェクトに携わっており、非常に詳細な議論を交わすことができました。ジュニパーネットワークスには、さまざまな技術や手法の検討や、SINET6の実現可能性の評価などでサポートしてもらいました。ジュニパーネットワークスのおかげで最先端の技術を導入することができました。非常に満足しています。」と、栗本氏は述べています。
冒頭でも触れたように、SINET6はこれまでよりも幅広い研究および教育現場で利用することが検討されており、ネットワークサービスとしてのさらなる進化が期待されています。加入機関の増加やニーズの多様化に伴い、業務の効率化や自動化も必要になるでしょう。今後は、次世代のSINETを見据えた企画も開始されます。
2022年9月公開